「誰一人取り残さない」ことの難しさ。聴こえた声がすべてか? 聴こえない声にこそ取り残してはいけないことがあるのではないか?

2021/03/27

「誰一人取り残さない」ことの難しさ。聴こえた声がすべてか? 聴こえない声にこそ取り残してはいけないことがあるのではないか?

声さえ上げられない人に情報は届くのか?

SDGsには“誰一人取り残さない”という言葉があります。
SDGsについての原稿を書いていると、この“誰一人取り残さない”ことの難しさを感じることがとても多い、と感じています。そして、「誰一人=100%」は、とても証明が難しいことだとも、思っています。

今回採択されたアジェンダのスローガンである“人間中心(people-centered)”,“誰一人取り残さない(no one will be left behind)”などに,日本が重視する人間の安全保障の理念が反映された他,グローバル・パートナーシップ,女性・保健・教育・防災・質の高い成長等,日本が提唱してきた要素や取組が多く盛り込まれています。
“誰一人取り残さない”世界の実現-「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の採択

今、世界にはたくさんの格差がありますが、この記事では情報格差について考えます。情報を受け取る格差と、発信する格差の両方です。

情報を受け取るという部分は、コロナ禍の特別定額給付金で顕著になったように思います。特別定額給付金を受け取ることができない方がいるというニュースをよく目にしました。特に居住が安定していない方。この方々への給付は自治体ごとの対応になったようです。すでに終了している特別定額給付金。本当に必要としている人で、受け取れなかった人がいるのではないか、と思うばかりです。
ホームレス等への特別定額給付金の周知について(協力依頼)
「協力依頼」という言葉も気になるところです。

受け取るための方法が用意されていたとしても、その情報に辿りつけなければ受け取ることができない、これが情報格差のひとつです。

そして、DV被害を受けている方には、以下の方法があったようです。

DV被害者に対しては、例外的に、被害者の分が、世帯主ではなく被害者に給付される制度があります。しかし、その制度において、直接給付を受けられるとされているのは、配偶者から暴力を受けている場合や、DV法における保護命令を受けている場合に限定されています。
新日本法規

とても限定的なことですが、方法がなかったわけではありません。しかし、DV法という情報にたどり着いているか? 保護命令をどうやって受けることができるのか? DV被害を受けている人たちにそれらの情報が届いているのか? を考えるきっかけになりました。

インターネットを使えば、このように調べることも可能ですが、インターネットで調べる状況にない人もいます。また、調べ方によっては見つけられない場合もあります。多くの人がスマートフォンを持つようになりましたが、保有割合と使いこなせている人とは必ずしも一致しません。

総務省では、以下の数字が出ています。

2019年における世帯の情報通信機器の保有状況をみると、「モバイル端末全体」(96.1%)の内数である「スマートフォン」は83.4%となり初めて8割を超えた。「パソコン」は69.1%、「固定電話」は69.0%となっている。
総務省

モバイル端末全体の保有数は96.1%。この数字はかなり高い数字ですが100%ではありません。そして、保有していない3.9%が金銭的理由で所有できないのであれば、その人たちこそ情報を得なければならない人だと感じています。前述しましたが、これは所有率であり、使いこなせているかは別の問題です。

聴こえる声だけがすべてか?

情報を発信する部分でも考えてみます。SNSの普及によって#MeTooというハッシュタグによって、「私も」という声が大きく広まりました。日本でも、石川優実さんが署名を集めた#KuTooがあります。このようにSNSというツールは、個人が声を上げることを可能にしました。賛否あるSNSですが、このような使い方ができるのは可能性を感じる部分です。しかし、SNSもインターネットを使ったツールであり、万能ではなく誰もがそこにリーチできるとは限りません。

聴こえてきた声はとても大切なことです。その声に気づき、まさに自分もと声を上げることができる人が増えていくことを祈りますが、それができない人たち。聴こえない声を探さなければ、「誰一人取り残さない」は完了しません。

警察が事件にならないと動かないという言葉をテレビドラマで聞きますが、このような記事も出ています。
動かない警察に”確実に”動いてもらう方法 「民事では動かない」は過去の話
“動いてもらうポイントは“犯罪が誘発される”可能性を示すこと。「邪魔なゴミ」では動けないが、「不審物」なら動かざるをえない。「子供が泣いている」では大変な状況かわからないが、「虐待されているのでは」と通報者が感じた犯罪の可能性を補足すれば、警察は事件性を感じ、必然的に動くという。”

このようなことこそ、知っているか、知らないかです。言葉の選び方や伝え方次第で、不可能だと思っていたことが可能になる場合もあるのですから。自分にとって必要な情報にリーチすることが、どれだけ大切かを実感します。

無戸籍の人たちへの対応は? 特別定額給付金。そして、コロナワクチン。

2020年9月27日の朝日新聞には、以下の数字が出ています。
“法務省が把握している無戸籍者は全国で894人(8月10日時点)。”
そして、総務省のサイトには、「無戸籍でお困りの方へ」というページがあります。

しかし、東洋経済の記事には、
日本の「無戸籍者1万人」は、なぜ生まれるのか 「就学、結婚もできない現実」を生む5つの謎
元衆議院議員で「民法772条による無戸籍児家族の会」代表をつとめる井戸まさえさんが書かれた『無戸籍の日本人』(集英社)が注目されています。
“戸籍がない人は確実に存在するのです。きちんとした統計はどこにもないので、1万人というのは「最低限、確実にそのぐらいはいる」という数字です。実際にはもっとたくさんいると思います。出生届が出せないなどの事情で、一時的に無戸籍になったことのある人を含めて累計すれば、20年間で6万人いることになるんです。相当な人数だと思いませんか。”
と書かれています。

総務省の894名という数字との隔たりは? と考えます。ここにも声を出せない方がいるように思います。

特別定額給付金は、無戸籍の方にも支給されました。
【10万円給付】無戸籍者にも支給

そして、2021年。コロナワクチンの接種に関しても厚労省が動いています。
「無戸籍」の人もワクチン接種の対象に 厚労省が自治体に要請

しかし、おそらくここでの無戸籍は総務省が把握している1000人未満の数字です。正しい数字が分からない「最低限、確実にそのぐらいはいる」という1万人。その隔たり9000人余の方々について考えなければ、「誰一人取り残さない」は、完了しないと考えます。

そして、無戸籍はひとつの例でしかありません。「誰一人取り残さない」を謡うSDGsは、とてもハードルが高い目標を掲げていることを改めて考えます。

記事執筆:伊藤緑(広報ウーマンネット 代表)